一人称と三人称の選び方と、小説の視点を保つコツ
「私」で書くか、人物の名前で書くか。それだけでなく、誰が知っていることを読者へ伝えるかを決めるのが視点選びです。同じ出来事でも、誰のそばから見るかによって秘密や感情の伝わり方が変わります。
人称と、伝えられる情報を分けて考える
一人称は「私」「僕」など語り手の言葉で語る形です。三人称は人物を名前や「彼」「彼女」などで示します。ただし三人称だからといって、全員の心を必ず説明するわけではありません。特定の一人が見聞きする範囲に寄り添う書き方もできます。
まずは一場面で一人に寄り添う方法を試すと、情報を整理しやすくなります。複数人の内面を扱う語りも可能ですが、今回は読み手が現在の視点人物を追えることを目標にします。
同じ場面を、二つの距離で書いてみる
一人称の例:机に二つ、カップがあった。来ると言った覚えはない。なのに、私の方だけ砂糖が多い。
三人称で紗季に寄り添う例:紗季は二つのカップを見た。来るとは伝えていない。それでも手前の一杯からは、いつもの甘い匂いがした。
どちらも相手の本音は明かしていません。一人称では語り手の言い回しが前に出やすく、三人称では名前を置いて人物の動作を追えます。どちらが優れているかではなく、今回ほしい語り口で選びます。
相手の心は、断定と推測を区別する
紗季の視点で「彼は告白を断られるのが怖かった」と断定すると、紗季にはわからない内面を急に知らせることになります。同じ情報を匂わせるなら「彼は何度も口を開き、閉じた。言いにくい話なのだろうか」と、観察と推測を分けられます。
推測が間違っていてもかまいません。その誤解が物語になることもあります。ただし、読み手に確定した事実として渡したい情報なのか、人物の思い込みとして渡したい情報なのかは意識しておきましょう。
視点を切り替えるなら、入口を作る
次の場面で相手の気持ちを書きたいなら、空行や章の区切りを置き、冒頭で人物と場所を示す方法があります。「紗季が帰ったあと、蓮は冷めたカップを流しへ運んだ」と始めれば、時間と中心人物の移動が伝わります。
相手側から同じ出来事を再度語るときは、新たにわかることを用意します。同じ会話を全部繰り返すより、隠していた手紙や、言わなかった一言に焦点を当てると、視点を変える意味が出ます。
視点の確認は、知識の出どころをたどる
練習では五百字ほどの場面を書き、心情を断定している文に印を付けます。「この人物は、どうしてそれを知っている?」と一文ずつ確かめましょう。見たこと、聞いたこと、思い出、推測を区別すると修正しやすくなります。
後年の語り手が昔を振り返る作品なら、その後に知ったことを語る形もあります。その場合も、出来事の最中の自分と、いま語っている自分の距離が読み手へ伝わるようにします。視点は制限であると同時に、何を秘密にしておくかを選ぶ道具です。
お題を、書きたい物語のきっかけに
オリジナルの人物を考えるなら一次創作のガチャへ。すでにいる二人の場面を考えるなら、二次創作の「推しカプガチャ」も使えます。出た結果のうち、気になる要素だけを物語へ取り入れてみてください。